第6回
テーマ:理解講座アーティスト版「理想の都市をコラージュする」
日程:10月22日(日)
講師:北澤潤(美術家)
*
本講座では、アーティストの北澤潤さんを招き、トークとワークショップを実施しました。
北澤潤さん
前半のトークでは、まず、日本やネパールといった様々な土地で企画、実施されてきた主なプロジェクトをご紹介いただきました。
埼玉県、徳島県、さらにはネパールなどでも開催されてきたプロジェクト《リビングルーム》では、商店街の空き店舗にカーペットを敷き、そこに周囲に住む人々の家を訪ねて集めてきた不要な生活用品を配置し、地域の人々が集える空間を作ります。また地域の人々は自宅にある生活用品との物々交換も行え、その内装は日々更新されていくものです。
《マイタウンマーケット》は、東日本大震災後の2011年6月に、福島県相馬郡新地町の仮設住宅で行った「手づくりの町」をつくる行事として開催されました。このプロジェクトでは、2メートル四方のゴザを仮設住宅に住む人々と編み、その作業に関わった人々とこれから作りたい町について話し合いました。さらに、組み合わせたゴザの上に、思い思いの「町のパーツ」を立ち上げ、それらを市場のように定期的に開催することで、コミュニティの活性化を図りました。
このように北澤さんは、これまでも数々の町を旅し、それぞれの土地にまつわるリサーチを元にプロジェクトを展開してきましたが、2016年からはインドネシアに長期間滞在され、現在は日本とインドネシアを往復しながら作家活動を展開されています。
そこで今回は、ジャカルタの都市開発と強制立ち退きの現場にて実施しているプロジェクト「理想の家のコンテスト」を中心にスライドを交えてお話しいただきました。このコンテストは余儀なく立ち退きをすることになった人々に各人にとっての理想的な家を提案してもらうという趣旨で企画されましたが、コンテスト当日には、地元の風習や文化を活かした催しも行われ、スライドからはそこで逞しく生きる人々の姿が伝わってきました。また前回の福島の回で触れられた、お祭りを含む文化イベントがもつ意義についての議論が思い起こされました。
後半のワークショップでは、みなとみらいとその周辺地域の写真をベースにし、その上に北澤さんがインドネシアで撮影されてきた写真の要素を切り抜いて貼付け、文化的な背景の異なる人々が共生する理想の都市像をテーマにコラージュを作りました。
普段はあまり意識されないものの、インドネシアの風景と重ね合わせることによって、みなとみらいの町の景観がいかに画一的で、また生活感や人の温かみが排除された空間であるかを実感させられます。
日本には、難民を含め、多様な文化の人々が定着しにくい環境であることはこれまでの理解講座で確認してきましたが、とりわけみなとみらいは、景観条例により、建築の色や、掲出できる看板の色味まで厳しく制限されています。
一方で、インドネシアでは、道端で自由に食べ物や生活用品の販売が行われており、同じ場所でも時間帯によって異なる物売りがお店を広げては畳む、ということを繰り返しているそうです。そのため、持ち運びが便利な、色鮮やかな布製の看板が印象的です。たとえばそうしたインドネシアのお米の量り売りを、日本のコンビニの写真の上に重ねると、食物の衛生管理や、一日の時間の流れなど、全く異なるふたつの国の姿が鮮やかに浮かび上がります。
もちろん、どちらの価値観が正しいと判断できるものではないものの、整備の行き届き、人工的なみなとみらいの景観の上にインドネシアの情景を重ねることで、たちまち町が人間味溢れる景色へと一変し、多様な文化が共生する彩り豊かな未来についてイメージする機会となりました。
*撮影:田中雄一郎
≫ 【Green light―アーティスティック・ワークショップ】開催日誌⑥
≪ 【Green light―アーティスティック・ワークショップ】開催日誌④
【Green light―アーティスティック・ワークショップ】各回アーカイブ映像はこちら(youtube)
【Green lightーアーティスティック・ワークショップ】開催日誌一覧はこちら