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16世紀にビージャープール王国で編纂された
占星術百科事典『ニュジューム・アル・ウルーム』の著者と意義について

エマ・フラット

1570年8月17日、ビージャープル王国のある写字生が意欲的かつ非常に複合的で贅沢な図版を施した占星学と星の魔術に関する書物を完成した。現在アイルランドのダブリンにあるチェスター・ビーティー図書館に保存されているその写本は、書物の題名ではなく、最初の1葉の書き込みにある「ヌジューム・アル・ウルーム(諸学の星々)」として広く知られている。これまで学術的に注目されてきたのは、豊かで荘厳な約400点に及ぶ図版である。そこに描かれているのは、驚くほど多様な天使や擬人化された惑星、黄道十二宮や(宮の下の)「度」、護符、魔法の呪文、占星の図やホロスコープ図、タントラの女神、馬、象、そして、武器 …… といったものである。

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本書の序章でも明らかなとおり、アリー・アーディル・シャー(本書の筆者と思われる)は本書を宮廷の貴族たちの教育のために編纂している。また、近しい友人を励ますことからこの百科事典的な書物を着想した、とまで述べている。

十分に手引きと導きを得て啓蒙された者にとっては明白で疑問の余地もないことだが、誠実な仲間で愛情深い友人たちが私のような人間に求めたのは、天文学、神秘主義、魔術と手品などの諸学に関する本書の各章に、いくばくかのことばを加えることであった。さらに、本書が植樹、医術やそれに類する諸章を語り、見えない神秘と心の秘密を打ち明けられる腹心の友人となり、そして[知識を]探求する人々の指南と導き手になることであった。このような人々が私に懇願し折り目正しい要請をした結果、これ以上の完成度はないと思われる水準のものに達した。そこで、卑しく慎み深い私は、人々の求めに応え、高貴なるものに従ったのである。諸々の薬が人々の命をケアするように。

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序章に続いて本書に収められている52の章のタイトルが列挙されている。第53章は空欄のまま残されている。これらの章の大部分は現存せず、また実際は完成しなかったのかもしれない。しかし、目次に挙げられている技術と知識の幅広さを見る限り、ビージャープルのコスモポリタンな宮廷文化の様子と宮廷に仕える者が身につけるべき多様で高度な技術がうかがえる。象、詩の知識、音楽、修辞学、医術に関する技術、さまざまな国の女性や男性にかかわる事柄から愛の形と天使の性質まで、あるいは造園、錬金術、調理、狩猟からレスリング、香水、火薬づくりまで、さらにはスーフィー、ヨガ行者、儀礼的賛歌からスパイの行動、信じられないような珍しい出来事、さまざまな動物肉の質など。アリー・アーディル・シャーはこの余すところのない目次の一覧のあとに、この書物の本来の目的について注意を喚起している。

これらの言説の断片が知的な者たちに美しく映し出されること、そして、これを購入する者には良質で称賛に足るものであることを願う。…… しかしながら、その後は、本書全体の本来の目的と意図
は先に書いたとおりであることを隠しておいてはいけない。ここには、諸要素から創造されたもの、天体、植物、鉱物、動物、天界にいる数々の天使たちと数珠のようなそれらの名前、天のあらゆる星々の本質でもある有益性の解明などの話がある。

以上のようなことばに加え、冒頭で本書が「人々(訳註:近しい人)の命をケアするための薬」であるとあらわしたように、アリー・アーディル・シャーは変革をもたらす知識の力を一貫して信じていたのである。

『ヌジューム・アル・ウルーム』の目次 (1)

第1章
7つの天国と天使、
神の座の天使、
黄道十二宮などの解説

第2章
7つの惑星と惑星が昇る位置、角度、
インドとホラーサーンの暦による年ごとの調整の説明

第3章
地球の特徴、
120の占星図とその力および力に打ち勝つこと、
ヨギーニの84の形式の解説

第4章
珍しい出来事、
そのしるしとそれらを回避する方法の説明

第5章
馬、
馬の状態、
病気の解説

第6章
象、
発情期の象の死、
象の状態と病気の説明

第7章
音楽、旋律、旋法、
108のリズム、
それぞれの長所と短所、
16番目の文字、
7つ目の音符とその産物と産物30個の名前の説明

第8章
神秘的な旅、
瞑想、
エクスタシー、
奇跡、
スーフィーから与えられた14軒の家。
エクスタシー、エクスタシーのランクと行動の説明

第9章
36の戦争用武器の説明、
それぞれの品質、特徴、機能についての説明

第10章
ヨギーの12のセクトに関すること、
セクトを区別する記号、
禁欲行為と行動の解説

第11章
予言とよい前兆の説明

第12章
種まきと造園の説明、
東風と東風が原因で発生するペストのための薬の説明

第13章
古代の賢人の実験の説明、
護符、
計算と事象の位置の説明

第14章
医術、病気、痛みの説明、
簡便な治療薬と複合的治療薬、
病気の原因、
万病をインドとペルシャの万病のシステムをもとに区別する
方法の説明

第15章
インドとホラーサーンのレスリング、
技、流儀と礼儀の説明

第16章
男性の4分類、
女性の4分類、
それぞれの特徴、
区別するための記号、
座り方の説明

第17章
火薬の説明と種類、
火薬の作り方の説明

第18章
儀礼的賛歌、
祈禱、
アラーの名前、
祈りに応えることとその方法、時間、
その起源の説明

第19章
ペルシャとインドのシステムによる呪文、
その効果、性質、
星の予知力、
狼煙、献酒の説明

第20章
宰相(ワズィール)と地方太守、護衛官、スパイに対する
スルタンの態度、
礼儀正しい行為、
策略、背信行為、正義、戦争、
スルタンの位のあり方の説明

第21章
動物の肉の種類、
効果、特質の説明

第22章
全能の神と真実が各都市に与え、授けた奇跡の説明

第23章
元気を回復するための治療に対する意識、
実現、実践、状況、効果、
名前の説明

第24章
香水の作り方、
方法論、
種類と性質の説明

第25章
gutkhaの起源、錬金術、
性質に反する行為を人に強制すること、
文学、天体の力、
精霊(jinn)の従属、
ジオマンシー(土占い)、
それらの起源のそれぞれの解説に関する説明

第26章
[呪文により、]人を殺す、人を追い払う、
人が行動や発言する力を奪う、
人を幻想で惑わせる、
人を盲目にする、人を聾者にする、
魔術、大魔術、
口実の説明とそれらの行為の解説

第27章
悪魔に憑かれる、khalatを回避する、
忠誠と守護の施しに関する説明

第28章
毒を拒絶すること、
毒の種類、原因、
毒の見分け方の説明

第29章
狡猾さの発端の説明

第30章
動物の狩猟方法とその名前と準備の説明

第31章
いろいろな場所から集められた薬草の作用の解説

第32章
夢の解釈の説明と真実と偽りの夢の説明

第33章
人の多様性と70種の分類とそれぞれの宗派、
主義、信仰の説明

第34章
愛、愛情の深さと愛情の種類の説明

第35章
階層ごとの人、社会、友情の行為の説明

第36章
貴賤上下のそれぞれの位の者を召喚する際のインドの方法と
ホラーサーンの方法の説明

第37章
詩の韻律、リズム、
その他詩に関するいろいろなことの説明

第38章
宝石と宝玉の種類の見分け方、
宝玉の効果と価値、宝石の印象の説明

第39章
言語の法則の説明と通年行われる儀礼とそれに必要なもの、
祝祭、機能などの説明

第40章
クルアーンにある預言者と天使ジブリールのことばとその解釈、
および男の知識とそれに関係することの説明

第41章
算数の法則、
掛け算、割り算、
算数に関係することの説明

第42章
話しことば、
文法、理論、神学、
修辞学などの説明

第43章
天文学の説明

第44章
アストロラーベ(天体観測用機器)の説明

第45章
体力、体力の要因と効果、
男の体力低下と治癒の説明

第46章
人相学と魔除けと護符の作り方の説明

第47章
最初の預言者アーダムと最後の預言者ムハンマドまでの
イスラームの預言者の系譜の説明

第48章
寓話と伝奇の説明

第49章
アラビア語、ペルシャ語、トルコ語、ヒンディ語、
サンスクリット語、フランク族のことば、カンナダ語、
テルグ語、トゥグラ文字などの文字とことばの説明

第50章
珍味、シャーベット、ハルヴァ、
砂糖菓子などの説明

第51章
商人と職人の技能の道具やわざの説明

第52章
記述の知識と記述に付随するペンを磨くことや
インクを作ることなどの説明

第53章 [空欄]


編註

(1) エマ・フラットによる目次を本ソースブック転載にあたり、編集した。

以下の文献から抜粋・編集し、翻訳した。
Emma Flatt, “The Authorship and Significance of the Nujūm al-‘ulūm: A Sixteenth-Century Astrological Encyclopedia from Bijapur,” Journal of the American Oriental Society, Vol. 131, No. 2 (April–June 2011), pp. 223–244.
翻訳:帆足亜紀
翻訳監修:矢野道雄