AfterGlow

アーティスティック・ディレクターメッセージ


「AFTERGLOW」というタイトルをめぐって


ヨコハマトリエンナーレ2020

アーティスティック・ディレクター

ラクス・メディア・コレクティヴ

 

 名前には、たくさんの意味が込められています。何といっても、名前は物語の始まりを思い起こさせます。わかっていることといないことをたちまち浮き彫りにし、親近感を引き出し、愛情を招く合図となります。また、時間を超えていくものでなくてはなりません。

 

 名前をつけるには時間がかかり、また時間が求められます。空間を共有することが困難な現在の環境のなかで、今回のトリエンナーレに名前をつけるとするならば、どこにでも浸透するような名前が求められる一方で、トリエンナーレのプロセスに持ちこまれる多数で多様な存在の個別性を濁らせて見えにくくしてしまうような圧倒的な力を持つものは回避されなければなりません。このトリエンナーレはテーマをつけることを前提としない取り組みを進めており、またアーティストや一般の人々を巻き込んで、予測のつかない発見、驚き、洞察を前提とした出合いを生み出そうと試みています。そうしたこともあって、私たちラクスが求める名前は、何かを確定する力は弱くとも、泡のごとく生まれては消えるような生き生きとした興奮に満ちた名前を求めていたのです⸺楽しさ、魅力、冒険、謎に満ちた名前を。

 

 こうしたことを念頭に置いて、私たちは 「AFTERGLOW」 というタイトルを提案することにしました。それは、光の間隔、輝くような期待、ゆらめく光の流れ、存在と生成の茂みの間を流れるエネルギー、といったものを表しています。

 

 「AFTERGLOW」 というタイトルのもとで行われるトリエンナーレは皆さんを、深い探求と予兆が示すゆらめく輝きの中へとお誘いします。そこでは、まだ起こっていないことやこれから起こることを期待したり予測したりすることと、じっくり考えぬくことや主張を押し通そうとすることとが混ざり合います。皆さんには、抑制を忘れ、見知らぬものとの出合いから生まれる鮮烈な喜びを見つけていただければと思います。

 このトリエンナーレでは、アートは、気まぐれで、人を戸惑わせるようなゲームに興じます。最近、ますます認知されるようになっている非人間ノン=ヒューマンと楽しげに親しみをかわし、集団の総意と個人の信念の物語を思い起こし、よく知られたさまざまな力が増減するところを観察し、私たちを毒性への恐怖に立ち向かわせようとします。

 

 ときにそのアートは、私たちを爆発のもたらす発散物の中へ誘うこともあるでしょう。また深海に潜む生命の存在を示す生物発光という信号となることもあれば、ほかの場所では、友情の輝きとなり、ケアのぬくもりとなり、あるいは独学者の目の中にある直観のひらめきとなるのです。

 

 横浜美術館とプロット48を「茂みを発生させる拠点」と考えてみてください。精神と想像力の生物学的多様性のための臨時避難所シェルターなのだと。私たちが「社会的距離」という新しい語彙を学び始めたまさにこの時期に、茂みのことを考えてみてほしいのです⸺それはパンデミックが広める排他的原則とはまさに正反対のものです。密度、没入、絡み合いといったイメージが頭に浮かびます。茂みの中を歩き回っているときに警戒心が高まるさまについて考えてみるのも面白いでしょう。そうしたときには、時間を経験する速度は遅くなります。変容した時間の経験は、共感というかたちをとることもあります。それは思いやりと同じくらい、他人に伝染うつりやすいものです⸺ そんなときには、接触や接触を認識している状態は、その伝染りやすいものを追放するようなこともなく、安全な状態へと戻るための鍵となります。それは、さまざまなかたちや性向をもつ生命を歓迎しているのです。

 

 今回のヨコハマトリエンナーレ2020は、私たちの多様な世界にある多様な流れを誠意をもって受け入れる態度を示します。その最初の瞬間から皆さんに、世界が液体でできている状況をお見せいたしましょう。確実とされる事態への思い込みを溶かし、ぼやけさせ、また周縁を中心として踊らせましょう。そこでは手つかずの自然はもはや文明に対立するものではなく、文化的倫理にありがちな偏狭さは公然と無視されるのです。

 

 「AFTERGLOW」では、空間を思考と感情の複雑なダイアグラムへと変えるような作品を展示します。それは古代のものと濃厚に接触し、時間に身体をこすりつけながら、不確かな未来を見きわめます。破壊された古代遺跡のかけらをつなぎ合わせて、不思議な物体を復元します。またそれは、異国の温室に育つ巨大な花のように咲き誇ります。不死を求める中に生命を欲求し、その結果桁違いに大きな宇宙に目を向けることを強います。困難な愛に向ける熱情を廃墟と化した病院の中に見出す一方で、植物フローラ動物フォーナのエロティシズムに対する興味を隠しません。

 

 私たちは、この喧騒と静寂の、加速と迂回の織りなす茂みを歩き回ることで時間の経験が変容してしまうことを、アーティストや仲間たちともどもお約束いたします。この茂みに入るための チケットは、幾重にも重なり密度の高い時間を想像しつつ、一見それほど重要ではないものにも注意を払うような時間を共有する機会に皆様をお誘いするためのものです。

 

 それは、自らの光を持って、濃密な流れの中で輝く方法を見つけます。

 

 「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」は、21世紀にアートを作り続けることの意味に光を当てます。

2020年4月

[須川善行訳]

Photo: KATO Hajime