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エピソード03

気配を感じて ー討議的正義をめぐる議論

エピソード03 討議的正義をめぐる議論では、「気配を感じて」と題し、日本のファッションデザイナーPUGMENT(パグメント)による《ワードローブ・ディスカッシヴ(討議する衣装)》と、フィリピンのサウンドアーティストのマーヴ・エスピナによる展示《空気でできた灯台》の2つのプロジェクトを横浜で展開します。また、会期末に展開するエピソード10「間質」のプログラムの一環として、討議的正義を熟考するためのウェビナーを開催します。

「討議的正義をめぐる議論」は、ミシェル・ウォン(香港)、ランティアン・シィエ(ドバイ)、カベロ・マラッツィ(ヨハネスブルグ)の3人が3つの都市で実施するエピソードの企画です。

討議的正義をめぐる議論:気配を感じて
シュヴェタ・サルダ

議論
端っこのほうから、それは変わっていく
めぐっていく、季節のように。
審理があり、訴訟の手続きがある。
証拠が提出される、証言は聴取される。
私たちは、審問する力を試される。
それには両方が必要だ──発話と時間の両方が。
審問するのは誰? 審問できるのは誰? 耳にするのは誰?

音の身体
音の世界に正義はあるのだろうか?
音の世界に集まれ。
それは音の(振幅がゆっくりと変化する)減衰だ。
それは動く、それは立ち上がる、それはカオスだ。
それは結合だ。
混乱も起こるだろう。
言葉は腹をすかす、発話するには身体が要る。
それぞれのものに尺度がある。
角ばった身体たちを開いた穴に押し通す。
よけいな部分は切り落とせ。
液体になれ。
音の身体、完成しているのに形がない。
それは基盤とそのルールに染みとおる。

衣装の登場人物
どうしたらここの登場人物になれるのか?
逃亡者、家出人。
新しい遊び場を作れ。
象の中には、さまよい、泳ぎ続けるうちに自分たちのもともとの姿を忘れてしまったものもいるという。
新しい身体たちが現れる。
新しい身体たちには新しい衣装が必要だ。
ヒエラルキーを解かすために。
空間の、位置の、役割のヒエラルキーを、昼夜を問わず解かすために。

ついておいで
聞こえる?
案内員さんについていってごらん。
ラジオが聞こえる?
案内員が動くとラジオ波のオーバーラップが起こる。
親密なものが思いもよらないほど大きなものの上にかぶさる。
ほかのチャンネルに音が漏れる。
ほかの地球上のものが現れる。
いたずら、朗読、おしゃべり、笑い声、音楽。
一時停止。
ごちゃまぜになったアナクロニズム。
出来事が時代や場所を横断していく。
空気でできた灯台のように。

追伸:銀色の魚
腹ぺこの登場人物が反乱を起こす。
覇権主義的胃袋に対する反乱だ。
消化は同時代人を動かす論理だ。
そして時間とは比類なき食材だ。

-ミシェル・ウォン、ランティアン・シィエ、カベロ・マラッツィ

翻訳協力:須川善行
翻訳監修:蔵屋美香・帆足亜紀・木村絵理子


■展示

《ワードローブ・ディスカッシヴ(討議する衣装)》
PUGMENT(パグメント)
構成要素:インスタグラム(アカウント名@wardrobe_discussive)、服装を考えるためのレシピ、来場者が身に着けている服

ヴェルナー・ヘルツォーク監督による映画『緑のアリが夢見るところ』(1985年)は、ウラン鉱脈を狙って開発を進める鉱石採掘会社に抵抗し、聖地を守ろうとするオーストラリアの先住民族アボリジニの様子を描いている作品です。土地所有権を争う裁判の中で、その土地所有権を示す証拠として、古くから伝わる神聖なものが布に覆われ差し出されますが、それを人が目にすると「世界が滅びる」との理由から法廷にいる者全員の退廷を裁判官に要請するのです。その瞬間、「裁判官、これはどのように記録すればよろしいでしょうか?」と書記官が問うシーンがあります。正義を考える上でこの問いこそ重要なのです。
《ワードローブ・ディスカッシヴ(討議する衣装)》は、PUGMENTが提示するレシピに従って参加者が衣装や振る舞いについて考える、インスタグラムで展開するプロジェクトです。このプロジェクトに参加して、映画に登場する書記官が経験したジレンマを解消する方法を考えてみませんか。

 

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Who I truely am? #uotd #wdywt #wardrobe_discussive

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《空気でできた灯台》
マーヴ・エスピナ
構成要素:電波送信とオーバーラップ、サウンド・ドローイング(図形楽譜)、付随する案内員の振付

マーヴ・エスピナによる《空気でできた灯台》は、横浜美術館会場の各所に設置したラジオ送信機を通じて会場内にいる案内員が手にするラジオから音が発せられるプロジェクトです。案内員の移動するタイミングに、宇宙の音、さまざまな個人、インドやフィリピン、香港、東京など討議的正義にかかわる都市の環境音、バイクの音や口笛など独自に集めたさまざまな音源が重なり合い聞こえます。

音源:ラジオ・アストロノミー・アソシエーション・スイス(RAAS)、ピクセルシンセ、パラヴィ・ポール、スナパランタ-ゴア・アート・センター、アルファベット・スクール、世界文化の家、アレッサンドロ・ジローラ、ラグナス・ラジャラム、アルンダティ・チャットパディア、ジーティン・ランガー、サイフ・アクタル、ブラド・ゾンベタ、シャリニ・パッシ、パスカル・マッシュ、ダヤニタ・シン、ヴィクラム・デサイ、クリス-エレン・ピーターズ、クレゼル・コエーリョ、ラジュ・ビスワス、ウメーシュ・パント、グレッグ・スタチョウィアック、ナミーシャ・パルササラティ、ラティカ・ロボ、ランジット・カンダルガオンカー、シャンタル・オリヴェイラ、ターニャ・ゴエル、ネリッサ・ローレンス、ナチュケット・バールヴェ、ニリマ・メネゼス、デラノ・ドゥスーザ、シヴァム・ラストギ、ロア・フォーブス、ナムラタ・ザカリア、アマンダ・ローレンス、バーバラ・ガヴェツォッティ、ザイン・マスード、ムンジャル・カパディア博士、カムナ・アナンド、ランジャニ・マズムダル、セドリック・G・アルメイダ、シェリル・ドゥサ、ワスウォ・X・ワスウォ、スリパルナ・ゴーシュ、シマ・タリク、ジョン・メネゼス、アミン・ジャッファー、クリシャ・シャー、キラン・アムブワニ、マレッタ・ゴディンハ、イーディス・ラザール、ジェイシマ、イプシータ・マイトラ、アニータ・イウェール、ラッタナンモル・ジョハル、ラクティーム・パラシャール、エイダ・エインモ・ヤーゲンセン、ネリンハ・ラヴァーラ、クリスティーナ・ヴェア・ニコル、カリャニ・チャウラ、レアンドル・ドゥスーザ、フィオナ・アムンゼン、イシェタ・サルガオカー、ポール・マチュー、ハジュラー・アーマッド、サヤ・ヒンドゥジャ、アナンディ・ソーンズ、ディパンウィタ・バナジー、オデッラ・ピント、カタリナ・ラシック、サヘジ・ラハール、ジェンヌ・クアイエ、スリー・バナジー、アンキター・ナイク、カベロ・マラッツィ、ランティアン・シィエ、ミシェル・ウォン、ラクス・メディア・コレクティヴ(ジーベシュ・バグチ、モニカ・ナルラ、シュッダブラタ・セーングプタ)、サウンドポケット(ラム・クオ・ヤム、ヴァン・セ、アリス・ウォン経由キウイ、ヴァネッサ・ライ)、バンガロールとニューデリー(インド)、ボゴタ(コロンビア)、香港、ラパス(ボリビア)、ニューヨーク市(アメリカ)、ケソン市(フィリピン)、サンティアゴ(チリ)、サントドミンゴ(ドミニカ共和国)、パイ(π)、モールス信号、90年代のダイアルアップモデム、シルボ、鳥言葉(kuş dili)、東京のバイク


■ウェビナー

討議的正義を熟考するためのウェビナーには、アラブ首長国連邦、インド、南アフリカ、メキシコ、インドネシア、香港で活躍する若手の建築家、パフォーマー、詩人、アーティスト、キュレータ―、思想家たちが登壇します。(言語:英語のみ)

■1日目 | 2020年10月9日(金)
時間:17:00〜20:00(日本時間)
17:00 開会の挨拶
17:05 シノ・ハシモト
17:15 スマヤ・ヴァリー
17:50 アーメド & ラシード・ビン・シャビブ
18:30 ハラ・アリ
19:00 クリスチャン・ニャンペタ
19:40 閉会の挨拶

■2日目 | 2020年10月10日(土)
時間:3:00〜5:05(日本時間)
3:00〜5:00 ラジオ・トロピエツォ
5:00〜5:05 ディネオ・シシェー・ボパペ

時間:17:00〜21:00(日本時間)
17:00 開会の挨拶
17:05 ディネオ・シシェー・ボパペ
17:10 グレース・サンボー
18:10 アミヤ・ナグパル
18:40 アビシェイク・ハズラ
19:20 マーク・チョン
19:35 サントシュ・S
20:30 閉会の挨拶

カベロ・マラッツィ、ミシェル・ウォン、ランティアン・シィエが召集した大陸を横断する支流は、身体、言葉、音、衣装、楽器、そして立場を変えながら公開討論会で作られた、平等を求めることから生まれるさまざまな難問[アポリア]を追求し、それを実践していきます。ここで参照されるのは国際人権法を専門とする一部の学者が提唱する理論。その理論によれば、法廷は、そこにかかわる人々の存在によって誰もが発言できるフォーラムに変わり、発話行為そのものが正義を求める場になりうるのです。

今から2億年以上も昔、雨は200万年もの間、とぎれずに惑星の表面全体に降り注ぎました。後期三畳紀の時代に発生した気候変動のカーニアン湿潤化イベントとして知られるそれは、パラパラと伝染するように広まりました。ここでは、私たちは気配の「環境ミリュー」を暗示いたします。

シノ・ハシモトは、バイクから吐き出されるエンジンの排気音をスピーチに変え、廃棄物からの訴えを救い上げます。それは、ご存知のように、放射能も祈りの呼びかけコールをすることができるかのように。スマヤ・ヴァリーは、建築を“摂取”する呼びかけコールをしてこのことを思い出させてくれます。そして私たちは“消化”を、広大で不安定な惑星インフラストラクチャとして捉えます。カウシャル・サプレやアスマ・トゥリカとスカイプで話していると、5分ごとに通話コールが途切れます。彼らはデータストリームにワームホールを仕掛けているのです。夜の砂漠をドライヴするビン・シャビブ兄弟は、来世の人と推手するかのごとく、建物の解体を回避するための柔軟な方法はないか考えをめぐらせます。幽霊の気配、そして幽霊の登場というふうにして、ハラ・アリはカダフィ大佐が着用した衣装姿の弁護人補佐官のシルエットを描きます。クリスチャン・ニャンペタはロドリグ・カレメラのラヴ・ソングを演奏します。

墓場のシフトに入ったラジオ・トロピエソは、ノイズ、即興、話し言葉、詩的なレクチャーを通して、メキシコの刑務所制度について考察します。ディネオ・シシェー・ボパペが自発的に録音した曲には、空間的に喉と舌の存在が認められます。ナメクジはコンクリートの上に這った跡を残します。歌とそれを見知らぬ人といっしょに聴く中で、アミヤ・ナグパルは惨めさを拒絶し、生物学的な条件を超えた豊かさとして生命を表現します。器官は身体を入れ替え、左右の目は身体から別の身体へと移動します。アビーシェク・ハザラは目が見る最後の光景に声を与えます。

香港では人工的な雨が降った日が何日もあり、ときに雨は声を耳にされることのないまま洗い流しました。 マーク・チャンは、違法な唱和、地名、予測不可能な過去などの一部をなすものが抹消されるところを再演してみせます。ジャワ島では、自分の位置から火の山の位置を割り出せる人がいます。国家の重大事とされるものの後に建てられた映画セットは、映画のなかでは事実として登場します。グレイス・サンボーは、それらを真実の視覚的な情報源として検証し、スクーターに乗って出かけます。サントーシュ・Sが争うのは、時間と時間と時間と時間と時間と……