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エピソードEpisōdo


エピソード02

中断された時間のためのセノグラフィ ー討議的正義をめぐる議論

エピソード02 討議的正義をめぐる議論では、「中断された時間のためのセノグラフィ」と題し、報酬と報復をめぐる関係性の外側にある可能性を考察し、紛争を解決するための新たな訴訟のかたちを探る展示をヨハネスブルグで展開します。

「討議的正義をめぐる議論」は、ミシェル・ウォン(香港)、ランティアン・シィエ(ドバイ)、カベロ・マラッツィ(ヨハネスブルグ)の3人が3つの都市で実施するエピソードの企画です。

会期:2020年7月3日~8月14日
会場:52 Kimberly road, Lorentzville, Johannesburg.

8月13日にオンラインで展示会場を紹介するウォークスルー配信を実施しました。そのアーカイブ映像が以下YouTubeにてご覧いただけます。(言語:英語のみ)


主人公:アオサギ、魚、銅、ナンニ[約4500年前、古代バビロニアで、粗悪な銅の地金をつかませた商人に対してクレームを粘土板に書き送った顧客]、木下貴博、キング氏、シシ・ウー、パラヴィ・ポール、黎朗生、イシャム・ベラダ、カネノナルキ、サンセベリア、アレカヤシ、猫のプッシー、そしてヨハネスブルグの晴れた朝にポーチでこの文章を書いているジョージ・マハーシェ

 

それは、街中のダイアゴナル・ストリートにあるいつもの「マジック」ショップで最近作ってもらった銅の延べ棒に、私がクレームを伝えたやりとりから始まる。

その延べ棒はすでに2度ほど作り直してもらったが、いずれもあまりにも薄っぺらく、払った金額ほど銅の重さを感じなかったので、たしかにナンニの立場も理解できるといっていい。もやもやは感じたものの、私は結局その薄っぺらな延べ棒は放っておいて、「疑うことを知らない」天体物理学者を引っ張りこんで、自分で作ることにしたのだった。そのバビロニアの粘土板に興味をもったのは、古代のクレームを詳しく書いてあるからというより、われわれの発達しすぎたクレーム文化に対して制裁措置をとるためだった――この件について詳しくは、「イー=ナシルへのクレームの粘土板、あまり頭のよくないティーン用ミーム」(1)を参照のこと。この粘土板が面白いのは、論争/売買というテーマ――銅の質をめぐる問題――が、重要だと思われたからだ。がっしりした延べ棒を手に入れようとさんざん苦労するうちに、われわれの生活の中での銅の流通量についてかなり詳しくなってからは、さらにその気持ちは強まった。銅をめぐる私の経験は、儀式的な意味合いを超えるものとなった。ヨハネスブルグの停電は、送電線に使われる銅が盗まれるためだという、よく耳にする言い訳を信用するならだが――それは「イジニョカ」[違法の電力網]の広告で、みなさんよくご存じのとおりだ。また、ブロンズの彫刻が立て続けに盗まれ、おそらく溶かされて金属スクラップ市場に流れたという噂もある。電子機器や日用品(1ランド・コイン[南アフリカ共和国の通貨]を含む)の機械部品の中にももちろん入っている。私が銅に興味をもったのは、もともと魔法(あるいは、この種のものを好きに呼んでもらってかまわないが)の問題から来ているが、これは計略を使って、運命とわれわれの生存をめぐる耐えがたい官僚制度に対してとっぴな思いつきをぶつけてみることだ。そう考えると、ここでシャミール[硬いものを切るときに使用された虫、あるいはもの]の伝説を思い出してみるのがよさそうだ。ソロモン王が神殿を建設するときに、またこのいにしえの魔法の力を探し求めるのに使った計略の数々について、お話ししよう。(2)

 

ソロモン王は神のために神殿を建てようとした。このとき、金に加えて真鍮や青銅もたくさん使ったが、鉄のように戦争に使う道具や金属を使うことはできなかった。

そこで彼は石を切るのに別の方法を探さなくてはならなかった。祭司たちは王に、シャミールという虫の話をした。その虫は、モーゼがあの名高い石板に十戒を刻むときに使われ、また大祭司の胸当ての上の宝石に12部族の名前を刻むのにも使われたという。天地創造の六日目に創られたというその虫がどこへ行ったのかは誰も知らない。祭司たちはソロモン王に、悪魔を召喚して尋問し、彼らにシャミールの居場所を教えてもらうか、あるいはそれを知るものを教えてもらうよう進言した。そこで、ソロモン王は女の悪魔と男の悪魔を召喚した(ふたりをいっしょに尋問しなくてはならなかった)。さんざんひどい目に合わせても、ふたりは本当に知らないと繰り返したが、悪魔の王アスモデウスなら知っているだろうと語った。悪魔たちはソロモン王にアスモデウスの居場所や日ごろの様子を伝え、慎重で疑り深い性格について話した――彼は毎朝起きて天に飛び、天使たちの天の歌を聞きながら人間の悪行や懺悔について詳しく語り、それから地獄に戻ってきて特別に掘った穴から水を飲み、その穴を厳重に守っているという。

このように、シャミール探しは強大なアスモデウスを捕らえてソロモン王の前に連れてくるための「手」から始まることになる。その「手」とは、アスモデウスが毎日の日課に出かけている間に、アスモデウスが水を飲む穴から水を抜き、そこを甘いぶどう酒で満たしてしまうというものだった――彼が天の歌を盗み聞きしているうちに(これは、人間をだます方法や時期を知るために、アスモデウスが人間の未来について集めた資料部屋のことを指しているという説もある)。この計画でソロモンの側近たちは、人を惹きつけてやまないことで知られるぶどうから作ったぶどう酒(3)、羊毛、神の名が書かれた鎖を持って出発した(ソロモンはほかの悪魔たちを幽閉するためにもうひとりの好奇心の強い助手を雇ったが、彼はその後悪魔たちが神殿を建てるための労働力となったと書いている)。穴の水を入れ替えるのは簡単ではなかった。アスモデウスは水を恐れていたので、穴を厳重に守っていた。穴は大きくてとても動かせないような岩で塞がれており、その上には魔法の封印がされていた。その封印は、勝手に開封されるとアスモデウスにそのことが伝わるようになっている。天国から帰ってくると、いつもアスモデウスは喉の渇きを癒す前に、まずその封印を念入りに調べた。この封印を避けるため、ソロモン王の側近たちは山の底に穴を掘って下から水を抜いて羊毛でふさぎ、頂上に作った別の穴から、封を開けることなく穴の中の水を入れ替えたのだった。

アスモデウスは帰ってくると封印を点検し、その結果に満足すると水を飲もうと封印を開いたが、彼はだまされなかった。アスモデウスはアルコールへの軽蔑をあらわにし、それが人間を破滅に導くものであると嘆き、この名誉を傷つける快楽を口にすることを拒否した。しかし、時が経つにつれ、喉が渇いてきたので、アスモデウスは唇を湿すくらいなら飲んでみようと自分自身にいいきかせた。これを何度か繰り返すうちに、アスモデウスはぶどう酒を飲み干してしまい、穴を空にしてしまった。そして彼は眠ってしまった。こうしてソロモン王の側近たちは、アスモデウスの首に魔法の鎖をかけ、彼を連れてエルサレムに戻ってきた。途中、アスモデウスは優しさと無関心の身ぶりを見せるが、後でこれは彼が人間の運命に通じていることの証だったことがわかる。(4)ソロモン王の前に引き出されたアスモデウスは、王の権威には関心を示さないので、ソロモン王は途方もないくらい残酷に彼を尋問したといわれているが、もちろんそうではないという説もある。拷問の終わりに、悪魔の王は、シャミールという虫は海の王子(これも悪魔――海の天使と呼ばれることもある)に預けてあることを明かすが、王子はそれを山の頂上近くに住むヤツガシラという鳥に貸しているという。シャミールを預かっているのはヤツガシラだけで、しかも仕事が終わったらすぐに持ってくるように厳しくいいつけられていた。ヤツガシラがシャミールを使ってどうするのかと聞くと、アスモデウスはシャミールを使って大きくて人が住めない山を崩して、人が住めるよう木の種を植えるのだという。それでヤツガシラは「石割り」とも呼ばれるのだった。そこで、ソロモン王はもう一度側近を送り出し、今度はヤツガシラからシャミールを取り戻そうとする。しかし、アスモデウスを解放することは拒否するのだった。

ヤツガシラからシャミールを奪うために、ソロモン王は側近たちにガラスを渡す。山に着いた側近たちは、ヤツガシラの巣を見つけ、その主が毎日の用事に出かけるのを待つ。ヤツガシラが巣から出ると、側近たちはその上にガラスを置いて、巣に入ることができないようにする。ヤツガシラが戻ってくると、ひな鳥はたしかに見えてはいるものの、強い力場が働いていて触れられないことがわかる。ヤツガシラは急いでエデンの園に向かい、悪魔からシャミールを借りて、ひな鳥を閉じこめているバリアーを破ろうとする。戻ってきてガラスにシャミールを使おうとすると、視界の外に隠れていた王の側近が大きな音を出し、ヤツガシラはパニックに陥ってシャミールを取り落とす。側近たちはシャミールを捕まえて逃げ出し、ソロモン王にシャミールを差し出す。ヤツガシラは何が起こったかを知ると、借りたシャミールを返す誓いを守れなかったので、自ら命を絶ったという。ソロモン王はシャミールを使い、捕らえた悪魔(5)の力を借りて神殿を建てる(戦に使う金属は使わずに)。悪魔に言うことを聞かせるにあたっては、シャミールの助けを借りて彫った魔法のお守り(6) が力を発揮する。しかし、王は結局アスモデウスの計略にかかって苦しむことになる。アスモデウスはソロモン王になりすまして彼の母親や妻全員と寝てしまうのだ。この辛い試練の後、ソロモン王は眠りにつくとき、アスモデウスが戻ってこないよう、戦闘訓練を受けた兵士700人にベッドの周りを囲んで守らせたと言われている。

 

麦ひと粒ほどの大きさもないといわれているシャミールの物語, だが、これが面白いのは、ソロモン王がトリックスターをイメージさせる一連の状況の中で中心的な主人公としての役割を果たしているからだけではなく――ソロモン王は神殿を建てるために、地中のウサギの穴を進むことになったりする――シャミールの性質や性格をめぐっていろいろな説があるためだ。ほとんどの説では、視覚/視線(7)で最も硬いものを壊したり、固い岩を溶かしたりできる虫だとされている。別の説では(主にアラビア語の文献)、 緑色の岩とされている――私が最初に興味をもったのは銅鉱石との関係で、その組成にはラジウムやウランが含まれることがあるのだ。それは緑色に輝き、その光(視界)が岩を崩壊させたり破砕させるというのだ(8)。さらに興味深いのは、シャミールの保管の仕方だ――鉛の箱(錬金術のモティーフでもあり、黒魔術から身を守るためのものでもある)の中に入れて、箱を羊毛で包み、麦のぬかの上に置いておくという――これはシャミールが放射性物質だという説の核心をなしており、物議を醸している作家イマニュエル・ヴェリコフスキーがこの説を提唱している(9)。また、シャミールは400年後にその効力を失った(緑色の石の放射線のライフサイクルと一致している)といわれているのも興味深いし、またそれが神殿の建物で使用するために特別に作られたもので、その神殿がバビロニアの王ネブカドネザルによって破壊されると消滅してしまうといわれているのも面白い。

 

出口

この話は結局あまり銅のことでも(10)粘土板のことでもなくなってしまったが、その言い訳として、ヨハネスブルグで開かれるエピソード02のためのセノグラフィ[舞台装置]として共有したい。この話は、銅にまつわる話が記された粘土板の複製を手掛けた木下貴博に関する会話からつながっている。3000年前の小さな粘土板の写真と木下の巡りあわせの前に、ヨハネスブルグでその粘土板について会話したことがあった――大英博物館に行って間違った粘土板を撮影してきた人もいた――際立っていたのは、この出合いをきっかけにして、木下が3Dプリントで簡単に複製できるような粘土板の再現の研究に打ち込んだことだ。この献身的な努力と費した時間のおかげで、私も熟慮の性質について考えさせられた。それはウサギの穴に入りこむようなことだが、魔法のように不思議なものを追い求めた結果なのだ。私が最初にソロモン王のことを考えたのは、彼の銅山についての半ば忘れられた話をたどり直したくなったからで、その銅山のひとつは、ヨハネスブルグから500キロも離れたファラボルワにあると噂されている。話をたどり直す間に、私はユダヤ教の文献、フリーメーソンのポッドキャスト、YouTubeのビデオ、バビロニアの伝説、鉱山ジャーナルの記事へと導かれ、さらにはヴェリコフスキーなる人物と出会って大歓迎を受ける(私が延べ棒を作るために天体物理学の助けを求めたときには、たいへんに助かった)という、まさにウサギの穴を通り抜けるはめになった。あるときには自分がアスモデウスを召喚したのではないかとさえ思い、眠れるように水の入った瓶をベッドのそばに置いておかなければならなかったくらいだ。

こうして私がこの話をするのは、「エピソード」の文脈を示すためではなく、この機会を左右する計略を指摘するためだ――実際、このエピソードは手のこんだ計略とも見える。しかし、その計略に入りこむためには、ヨハネスブルグで広く知られる別の話をしなくてはならない。それは、ベレアの池で、アオサギに食べられるわけでも捕まるわけでもなく、ただ無意味に殺された魚の群れの仇討ちをするためにアオサギをおびき寄せるという話だ。

執筆:ジョージ・マハーシェ
翻訳協力:須川善行

 


1 https://www.facebook.com/onaccountofthatonetriflingMinaofsilverthatIoweyou/

2 また、ソロモン王が考えるこの後の企みについて。ソロモン王が強大な主人公アスモデウスと小ぜりあいを起こした結果のやっかいごとに対処しようと策を練る。アスモデウスは、ソロモン王がシャミールを手に入れる仲立ちとなる。
つまりこれは、われわれが魔力を得るための取り引きの話であり、われわれが解放するものに対処するために学ばなくてはならない黒魔術の話でもある。私の延べ棒のように、この言い訳は、天界と交わるための人工物/装置を作ろうとする試みの話であり、その探求のためには骨身を惜しんではいられない。シャミールの話は、バビロニアのタルムードに記録されているとおり、ソロモン王が紀元前10世紀にイスラエルの神のために神殿を建てようとしたときのもので、シャミールの性質をめぐる議論くらい多くのヴァリエーションをもって物語られている。

3 持ち主の名前は覚えていない。

4 ここでの身ぶりのひとつは、花婿がまもなく死んでしまう花嫁に対してアスモデウスが悲しんでいることを示していた。花婿は花嫁に、彼女の未成年の弟が成人して開放してくれるまで待てと宣告した。この小さな物語には、ある意味で、欲望の悪魔としてのアスモデウスの役割が垣間見られる。アスモデウスは、夫婦間の面会における困難を司っており、若い花嫁の夫を殺して、女を愛していない男から女を守り、また男の肉体的な欲望が見せる淫らな夢を手助けして、男たちをほかの女に欲情させ、妻を捨てさせるのだ。

5 神殿を完成させると、ソロモン王は、アスモデウスを自分の前に引き出したが、奇妙なやりとりの中で、アスモデウスはソロモンを騙して神の名のついた鎖を外し、自分の力を取り戻した。アスモデウスは翼を伸ばして天と地を結び、ソロモン王を宮殿から遠くに放り投げて自分がその座についた。しばらく乞食として生活していたソロモン王が、王位を取り戻すために大臣のひとりに近づき、注意深くソロモン王が妻たちにどう振る舞っているか尋ねると、大臣は王が別人のようであり、妻たちと性交したいと言い募っていると答えた。たとえ妻が生理中であっても。

6 こうしたお守りは、最近の映画『アトランティックス』で、同じ、あるいは似たものが使われ/触れられている。特にそれを使う主人公のスレイマンという名前は、ソロモンという名前のアラビア語版だ。映画では、精霊(悪魔に相当する)について触れているほか、アスモデウスが結婚の初夜の邪魔をすることと、女性が結婚する男性を愛していなかったり、男性が女性に実際には興味を持っていないこととの関連について触れているところがある。

7 虫の視線をメデューサの髪の毛にたとえる人もいる。

8 もっと面白いのは、私の好きな登場人物のひとり、ヴェリコフスキーが提案しているものだ――それは後にとっておこう。

9 精神分析医のヴェリコフスキーは、聖書の文句や、エジプトやその他の古代の文言を使って、宇宙の割と「正確な」仮説をつくって1940年代に確立された説に異議を唱え、さらに、科学者は楔形文字の刻まれた粘土板にあった重要な洞察を無視していると主張した。その粘土板には、聖書の『出エジプト記』以前に、天についての違う説明が書かれていた。ヴェリコフスキーは、奇跡とは破滅を迎えた小惑星で起こったことの結果だといい、似た文言を使ってシャミールについても異なる見かたを示している。

10 この話は、銅というよりは、われわれが行う計略についてのものだ。最初に銅について話そうと思ったときには、こっそりソロモン王の鉱山のことを考えていたが、結局シャミールを価値ある主人公とする物語を想起せざるをえなかった。この縁起の良い家であなたを待つ主人公たちのひとりにシャミールを加えずにはいられなかったのだ。


プッシーはキング氏宅の隣に住んでいる。誰も猫を知らない。

キング氏はケージを作って、その中に住んでいた。そのケージはごく小さなもので、外界とはつぎはぎだらけの金網でつながっていた。魚がケージに守られたバスタブの中で楽しげに泳いでいた。ケージの中の籠の鳥がピイピイと鳴いている。キング氏のケージの外では、サボテンがそれよりも高く成長し、ハマユウが咲きほこり、ムラサキナズナの香りが空気を満たす。キング氏はもういない。

カネノナルキ、サンセベリア、アレカヤシは、コンパニオンプラント[近くで栽培すると互いによい影響を与えあう2種以上の植物の組み合わせ]で、共に空気を新鮮に保つよう働くといわれている。これらの植物は手入れが簡単で、価格も手ごろ、簡単に手に入れることができる。 デリーのパハルプール・ビジネスセンターは、こうした植物でいっぱいだ。この建物のオーナーは実業家/環境保護活動家のカマル・ミートルで、彼はデリーの空気を吸うことができないほどの病状に苦しんでいる。ここを離れたくなかった彼は、NASAの研究でアレカヤシ(またはバタフライ・パーム)、カネノナルキ(またはゴールデンポトス、または悪魔のツタ)、サンセベリア(義母の舌とも呼ばれ、ダーバンでは赤カレーのスパイスの名前でもある)といった植物に偶然出合った。これには批判がある。NASAの実験は、密閉された小部屋を備えた閉鎖制御システムだった――密閉された小部屋は、肘掛け椅子1脚分程度の大きさだ――宇宙船には完璧だが、閉鎖系ではない世界には適していない。

ジャムの瓶くらいの大きさで、宇宙くらいの小ささの世界では、結晶は微小時間で成長し、自重に依存し、イシャム・ベラダとともにまた成長する。

鳥のさえずり、サイレン、風が、適度にあいた隙間やゆるい蝶つがいから、滝のように流れこんでくる。デリーのドアがドア枠と出合う。われわれは蚊帳を用意して、パラヴィ・ポールとイナゴの襲来に備えた。

ユウ・マンホンは香港から国境を越えて深圳に移り、20年前に行方不明になった。 シシ・ウーは牛の形をした提灯を送りユウ・マンホンといっしょに渡し舟に乗る。

アオサギは釣りにやってきて、翼を合わせて傘の形をつくり、影を作って水中にいる魚が見えるようにする。魚を盗むために庭に入ってきたアオサギ――は、魚にひっかき傷をつけることはできるが、つかまえることはできないので、池は魚がつかまらないよう水位を下げている。

はキング氏のケージの裏庭にあるバスタブ池に居住している。装飾用に飼われており、その上には泥棒に水のポンプを盗まないよう戒める掲示がある。池の縁には球形のガラスの物体があり、魚たちにとっては世界の反映に見える。魚は、アオサギが彼らを夕食にと夢見ていることを知らない。

ユニバーサル・リモコンを片手に、黎朗生は、営業時間後のショッピングモールの店頭のテレビから時間を奪う。

は、500g、1kg、5kgのパッケージに入っている。その形状には、顆粒、シート、地金、スクラップといったものがある。銅はその日のLME価格で転売できる。

ナンニはテルムンに住み、働いていた。ナンニはメソポタミア全土で銅、その他の原材料の輸出入や取引に従事していたが、この仕事の取引は、借金をしながら想像力を働かせて投機を行ったりして軽蔑されることもあった。

A・レオ・オッペンハイムは、世界初の顧客サービスに対するクレームを翻訳したアッシリア学者だ。そのクレームは以下のとおり。
「おまえはこの間こう言ったな。『ギミル・シンが来たら、上等の銅の地金をあげるよ』と。おまえはそれでその場を立ち去ったが、私に約束したことは果たさなかった。おまえは、私の使者シット・シンの前に粗悪な地金を置いて『ほしければもっていけ、そうでなければどこかへ消えろ!』と言った。私のようなものをそのように馬鹿にして扱うとは、おまえは私を何だと思っているのか? 私は自分同様の紳士を使者として送り、おまえに預けた私の金の入った袋を引き取りにやらせた。しかし、おまえは私を馬鹿にして何度も手ぶらで追い払った、わざわざ敵地を通っているのにだ。テルムンと交易している商人の中にこのような仕打ちをした者がほかにいるか? こんなふうに使者を侮辱して扱うのはおまえだけだ! たかだか1ミナ銀貨をおまえに借りているからといって、そんな口の利き方をしてもいいと思っているのか。私はおまえのかわりに宮殿に1080ポンドの銅を渡し、ウミ・アブムも同様に宮殿に1080ポンドの銅を渡しているというのに。しかも、どちらもわれわれが石板に書いて封印し、シャマシュの神殿に保管してある分とは別ものだ。

その銅のために、おまえは私にそんな扱いをするのか? おまえは私の金の入った袋をもったまま敵地に潜んでいる。今や私の金をそっくり返すかどうかはおまえ次第だ。これからは、おまえから粗悪な銅は受け取らないと覚えておけ。これから地金は自分の敷地で一個一個選んで買うことにする。おまえには拒否権を行使する、それもおまえが私を馬鹿にしたからだ」

木下貴博は横浜で勤務している。横浜美術館にある教育普及部門のアートエデュケーターで一般の方に彫刻などの指導をしている。木下は、数千年前から未解決になっているこの銅取引の話を聞いて、横浜の商社に勤めていた親戚のことを思い出したという。その親戚は、銅に限らず海外貿易がいかに複雑なビジネスであるかをよく話していたそうで、取引のたびに多くのクレームが寄せられたという。

ジョージ・マハーシェは、ヨハネスブルグの晴れた朝、ポーチの上で銅について書いている。

 

本展覧会の様子は以下のYouTube動画や写真からご覧いただけます。
▷記録映像(動画時間 5分)


映像撮影:ファツォッキ

 

 


写真撮影:ジョージ・マハーシェ