NEW TOPICS
  • スペシャル
    ・サポーター
山田五郎

山田五郎 やまだ・ごろう

1958年 東京都生まれ。編集者・評論家。 上智大学文学部在学中にオーストリア・ザルツブルク大学に1年間遊学し西洋美術史を学ぶ。卒業後、講談社に入社『Hot-Dog PRESS』編集長、総合編纂局担当部長等を経てフリーに。現在は時計、ファッション、西洋美術、街づくり、など幅広い分野で講演、執筆活動を続けている。著者に『百万人のお尻学』(講談社+α文庫)、『20世紀少年白書』(世界文化社)、『山田五郎のマニア解体新書』(講談社)、『知識ゼロからの西洋絵画入門』(幻冬舎)、『純情の男飯』(講談社)、『知識ゼロからの西洋絵画史入門』(幻冬舎)、『銀座のすし』(文藝春秋)など。TVでは「出没!アド街ック天国」(テレビ東京)、「PON」(日本テレビ)、「ぶらぶら美術博物館」(BS日テレ)、「親爺同志」(モンドTV)、「山田五郎のだべり喫茶」(ファミリー劇場)、「東京暇人」(日本テレビ)、他レギュラー出演中。ラジオでは「デイ・キャッチ」(TBSラジオ)、「山田五郎と中川翔子の『リミックスZ』」(JFN系列)他レギュラー出演中。

エッセイ

 

 五十路も半ばとなると、忘れるはずがないことを忘れていても驚かない。むしろ覚えているはずがないことを覚えている方が、何か意味がありそうで不安になる。

 たとえば、ヨコハマトリエンナーレ2014で出会った大竹伸朗の《網膜屋/記憶濾過小屋》という作品に満載された、昭和の写真やガラクタたち。どこにでもあったものだから、見たことがないはずのものまで見たことがあるような気にさせられて、記憶は濾過されるどころか逆に混濁する。網膜がとらえる情報は、写真などメディアを通して間接的に見ても実物を直接見たかのように脳が補正しがちなため、加齢と共に記憶が曖昧になるにつれますます区別がつかなくなるようだ。新港ピア会場の窓の向こうに広がる海に漕ぎ出す船を想像させるこの作品が暗示するように、記憶はいっそ忘却の荒波に洗われることでしか濾過できないのかもしれない。

大竹伸朗《網膜屋/記憶濾過小屋》(2014)の前で案内役の林キュレーターと
『Moe Nai Ko To Ba』 2014年 撮影:加藤健

 美を形ある実体として永遠に残そうとしてきた古典美術に疑問を投げかける現代美術にとって、「忘却」はしばしば重要な要素となる。そこに目をつけて展覧会の総合テーマに据えたアーティスティック・ディレクター森村泰昌さんのご炯眼は、さすがというしかないだろう。

 さらに「忘却」を象徴するサブテーマに、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』を設定。未来の焚書社会を描いた同小説へのオマージュとして、さまざまな作家の作品を綴じ込んだ大判の書物《Moe Nai Ko To Ba》を編み上げた。総革モザイク装の素晴らしい造本は、世界的ルリュール(手作り豪華本)作家、大家利夫さんの手によるもの。会場で自由に閲覧できるので、綴じられた作品を鑑賞するだけではなく、ぜひ表紙にも手を触れて極上のルリュール本の味わいを体感してほしい。

 世界に一冊しかないこの本は会期のフィナーレに燃やされてしまう運命だとか。本は焼かれ「忘却」されても、そこに刻まれていた言葉は人々の記憶に残り永遠に燃え尽きない。さすが森村さんというしかないアーティスティックな趣向だが、美術と同じくらい限定本を愛する私としては、こればかりはさすがに賛同できない。貴重な大家利夫の一点もの大型本だ。できれば焚書パフォーマンスの計画自体を「忘却」していただきたいと切に願う。

『Moe Nai Ko To Ba』 2014年 撮影:加藤健
pic_morimura

アーティスティック・ディレクター 森村泰昌よりお返事

山田五郎 様

先日はBS日テレ「ぶらぶら美術・博物館」の楽しい収録ありがとうございました。

世界でただ一冊の本、「Moe Nai Ko To Ba」に対する山田さんの気持ち(=「本」を愛する気持ち)が、ひしひしと伝わって来て、私の気持ちもかなりぐらついています。さあ、エンディングのセレモニーはどうしようか。閉幕直前、「燃やすな」と突然あらわれた怪人が、持ち去って何処かへと消えて行く。「本」は、はたしてどこに? こんなふうに筋書きを書きかえるか。

でも、ホントにそういう人物があらわれたら、スゴイ。ヨコハマトリエンナーレ2014、何が起こるか最後まで目が離せません・・・最後まで見守っていただけたらとても光栄です。

いつも立ち話なので、次回はどこかでじっくりとお話させてください。大阪の話もしたいなあ。

忘却の海からの5つの質問
あなたの世界の中心には、何がありますか?
茫漠たる「虚無」があります。
ここに大きなゴミ箱があります。形のあるものも、形のないものも、何でも投げ込むことができます。
あなたには投げ込みたいものがありますか?ある場合、それは何ですか?
ある。
己の世界の中心に居座る「虚無」を投げ込みたいです。
あなたの日常生活にアートはあった方がいいですか?それは、なぜですか?
なくてもいいものだからこそ、あった方がいいと思います。
今、あなたが一番大切にしている本が燃やされようとしています。
あなたはどんな声または言葉を発しますか?
「その本、一千万円出しても買えないけど、弁償できる?」
「横浜」のイメージを色に例えると、何色ですか?
やや黒ずんだ煉瓦色です。