開催概要

コンセプトについて

ヨコハマトリエンナーレ2011 アーティスティック・ディレクター 三木 あき子

OUR MAGIC HOUR
ー世界はどこまで知ることができるか?ー

21世紀初頭の現在、科学技術は高度に発達し、インターネット等のメディアによって世界は隅々まで明らかにされたかに思えます。しかし、我々の身の回りには、まだまだ科学や理性では説明できない世界の不思議が多く存在するとともに、科学技術の発展によって我々の時空間概念も大きく変容しつつあります。

第4回目となる横浜トリエンナーレでは、「OUR MAGIC HOURー世界はどこまで知ることができるか?ー」というタイトルのもと、世界や日常の不思議、魔法のような力、神話、伝説、アニミズム等を基調とした作品に注目します。この方向性は、決して科学の限界を問うものでも、また神秘主義を讃えたり、単にアートの娯楽性のみを追求したりするものでもありません。それよりも、こうした科学や理性では解き明かせない領域に改めて眼を向けることで、これまで周辺と捉えられていた、あるいは忘れ去られていた価値観や、人と自然の関係について考えるとともに、より柔軟で開かれた世界との関わり方や、物事・歴史の異なる見方を示唆しようとするものです。

今回、横浜美術館と日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)の二つのメイン会場に加え、ヨコハマ創造都市センター(YCC)など屋外数箇所に、国内外の77組/79名のアーティストらによる作品を中心に、総計300点以上の作品が一挙に展示されます。

展覧会タイトルにもなっている、虹の作品《OUR MAGIC HOUR》や原始彫刻を想起させる巨大な彫刻群等が人々を迎え入れる横浜美術館では、現代美術作品とともに、所蔵作品の近代絵画、浮世絵やコプト織のような歴史的作品から妖怪グッズまで、制作年代も素材もジャンルも異なる多種多様な作品が展示されます。

このように、本トリエンナーレでは、会場の各所にさまざまな「遭遇・出会い」を発見することができます。それは、単に観客参加型の作品を含むということではなく、思いがけない組み合わせで、時代や世代、文化背景、ジャンルの異なる作品が対峙・対話、関係性をもつことで新たな解釈や創造が生まれ、分類やカテゴリーにとらわれない自由な鑑賞の旅を促します。また、今回から同館が主会場のひとつになったことを受けて、美術館の所蔵品や美術館という場所に新たな視点を投げ掛ける作品も含みます。

一方、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)では、植物や霧、砂といった生の素材を用いた大型のインスタレーションや、会場でアーティスト自身が直接創り上げる彫刻作品等、ダイナミックでサイトスペシフィックな展示をご覧いただけます。

また、メイン会場の外でもさまざまな出会いがあります。人々が集い、情報が行き交う場所として発足したヨコハマ創造都市センター(YCC)内には、突如温室が出現し、植物のための音楽ライブ演奏が行われます。また、市内の植物園では、そこで育てられた南瓜に美しいタイ・カーヴィングが施さます。

いずれの会場もテーマにあわせたセクション構成等は設定していませんが、「起源(無からの創造)」、「錬金術」、「儀式」、「夢・無意識」、「世界を測る」、「個人神話」、「玉・円・循環」、「奇妙な風景」、「幻影・現出」、「森」、「宇宙」、「進化」、「時空間トリップ」、「見えるもの/見えないもの」、「トランス/マントラ」、「想像の都市/架空の生物」、「魔術師」、「神懸り(日常とスピリチュアル)」、「浮遊」、「生命力」、「生と死」、「混沌と秩序」、「太陽でも死でもなく」、「花を捧ぐ」といった多くのキーワードが隠されています。

作品や展覧会に、こう見るべきという決まりはありません。混沌とした雰囲気のなかから、各観客それぞれが自由に想像力を働かせて、作品とキーワードを繋げたり、異なる作品同士の関係性を考えたりしながら、独自の展覧会のストーリーを紡ぎ出してもらえればと思います。

謎や矛盾を柔軟に受け止め、視点を変えれば、魔法のように世界は開けるかもしれない――ヨコハマトリエンナーレ2011は、先行きの見えない混沌の時代といわれる現在、こうした思いのもと、既成の枠組みや観念に縛られず、子供のように純粋な好奇心と柔軟性、想像力をもって、我々の生きる環境や時代、そして人間存在について改めて考えようとするものです。本トリエンナーレが、世界の奥深さとともに、人間の創造力、強さ、可能性を再確認できるミラクルな時間の旅となることを願います。

ヨコハマトリエンナーレ2011
アーティスティック・ディレクター
三木 あき子
ヨコハマトリエンナーレ2011 アーティスティック・ディレクター
インディペンデント・キュレーター、電通アートプロジェクト共同ディレクター、パレ・ド・トーキョー(パリ)のチーフ・キュレーター等を歴任。現在パリを拠点に活動。バービカンアートギャラリー(ロンドン)や韓国国立現代美術館等での企画、台北ビエンナーレ等の国際展での経験も多数。米国ワシントン大学美術史科卒業、パリ第四ソルボンヌ大学美術史修士課程修了。

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